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こうもりとVivid Opera Tokyoの歩み

著:鈴木 麻由 (声楽家/Vivid Opera Tokyoメンバー)

 Vivid Opera Tokyo(以下VOT)と《こうもり》の歴史は長く、初演は2018年。メンバーがキャストもスタッフも兼ねる、若さと勢いのあるアツい公演でした。再演は2022年。団体としては初となるダブルキャスト起用を行った記念すべき公演です。また私の記憶が正しければ、VOTという団体ができる前のそれはそれは昔、メンバーが学生だった頃にも学園祭で小さく上演しています。世界中に数えきれないほどオペラやオペレッタがある中で、VOTは何度も《こうもり》と向き合い続けてきたのです。

2018年公演第1幕より。ソファ・テーブルなど道具のほとんどは出演者の私物で集めた一方、2幕で使用する檜風呂はメンバーが木から手作りした。

 ではそもそも《こうもり》とはどんな作品なのか。
「とある一家の男と女が騙し騙されワルツを踊る」
 探り合い、咄嗟に出た嘘、追い詰められた焦り。優雅なワルツに足を取られながらも踊り続けるのが、とにかく滑稽で面白い。華やかなパーティーの裏で起こる夫婦喧嘩に誰もが笑い、物語に惹きつけられます。VOTはこの作品の「笑い」の魅力にすっかりハマり、何度も上演するに至っているのではと思います。

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2022年公演第1幕より。大正を感じさせるカウチソファーとローテーブルはレンタル、さらにプロジェクションマッピングを導入し、公演のクオリティが大きく向上した。

 VOTが団体として成長するとともに、VOTの《こうもり》も進化していきました。法被を着て浮かれた夫、舞台の中央に鎮座する檜風呂、幕間の落語家、ストロン◯ゼ◯…ツッコミが追いつかないほどの新解釈。私たちはこれが自分たちの「色」と信じて、VOTのオリジナル性を主張しつつも音楽には忠実に、観客には爆笑を、果敢にこの作品に立ち向かってきました。ただ「笑い」を引き出すのは簡単ではありません。《こうもり》自体の面白いベースがありながらもそれを活かすもコロスも私たち次第であり、何度上演した今でも「爆笑の嵐」は気まぐれです。しかし「笑い」の追求は確実にVOTの力となり、VOTの歴史を語る上でなくてはならない作品となりました。

 私は小さな上演も含め、VOTでは3度ロザリンデを演じました。演じる際はえいっ!と強めの気合いを入れなくてはならない役です。「日々の寂しさからかつての恋人に思いを馳せてしまうけれど、夫の火遊びは絶対に許せない!」そんな矛盾とヒステリックが彼女の魅力です。ロザリンデだけでなく全ての登場人物が個性的で一筋縄ではいかないのがこの作品の特徴でもあります。個々がギラギラと光る、そのカオスすら今ではVOTの得意分野となりました。

2022年公演第2幕より。鈴木(右)の迫真の芝居によって客席を爆笑の渦に巻き込んだ。

 そして2024年、進化を通り越して新たに生まれ変わった《こうもり AnotherWorld》。VOTの「色」に「ネオン」を加えて現代社会にスッとナイフを入れます。
 VOTが挑み続けた先のさらに先。オペラの常識を超える可能性の追求。笑って時々ドキッとさせられる。そんなオペラ体験をご期待ください。

鈴木 麻由

声楽家/Vivid Opera Tokyoメンバー

桐朋学園大学音楽学部声楽専攻卒業。同大学研究科2年修了、桐朋学園大学大学院 音楽研究科 オペラコース修了。

第23回日本クラシック音楽コンクール全国大会声楽部門大学女子の部で5位。

 

これまでに《ダイドーとエネアス》(ダイドー)、《ジャン二・スキッキ》(ネッラ)、《こうもり》(ロザリンデ)等に出演。

近江楽堂ランチタイムコンサートに2度出演。

東京メトロポリタンオペラ財団、育成部1期生。

落合美和子氏に師事。

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