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登場人物の名前で楽しむ『こうもり』

著:玉崎 優人 (指揮者)

─《こうもり AnotherWorld》で指揮者を務める玉崎優人氏に、『こうもり』の楽しみ方について伺いました。

 

「オペレッタ王」や「ワルツ王」と称されるヨハン・シュトラウス2世は、各キャラクターの個性を活かした音楽付けが非常に巧みだと感じます。軽快な音楽、甘い音楽、ウィンナワルツ、そしてスローワルツ。それらを非常に効果的に使い分けており、全編を通して退屈するところがありません。

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​ウィーン・市立公園にあるヨハン・シュトラウス立像

登場人物の名前に初演当時の世界情勢が反映されているのは興味深いところです。アイゼンシュタインはドイツ語で「鉄の石」、これは鉄血宰相ビスマルクを連想させます。ファルケは「鷹」。これは“双頭の鷲”を家紋とするハプスブルク家を思い起こさせます。ファルケ=ハプスブルク家がアイゼンシュタイン=ビスマルクを翻弄する様子は、当時のウィーンの人々にとって痛快だったのではないでしょうか(笑)

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 他のキャラクターの名前にもそれぞれ意味があります。ロザリンデは「ロザ=バラ」+「リンデ=菩提樹」。「lindern=和らげる、慰める」とも取れます。アルフレードはありふれたイタリア人の名前ですが、彼が最初に登場する場面では楽譜に「Allegretto=快活に」と書かれています。「Allegretto」はイタリアの広場で子供が楽しそうに踊っているようなイメージです。ブリントは「分別がない者」といった意味で、彼の弁護士としての仕事ぶりを皮肉っています。アデーレには「adel=貴族的な」という意味がありますし、これは彼女の願望を表しているのでしょう。イダにはギリシャ語で「id=労働」という意味があります。又は、アデーレと二人合わせて「アデライーデ」とも取れるかもしれません。

 そしてオルロフスキー。彼は本当にロシア人なのか?そもそも何者なんだ?(笑)とも思ってしまいますが、高貴な身分であり権力を有している人物像であることは確かです。彼が主催する仮面舞踏会は上流階級だけの楽しみであり、本来お金がない人(アデーレ、イダ達)は立ち入れない。夜会のシーンからは、華やかな世界の裏には目を背けられている社会の闇がある、そんな構造が見て取れるでしょう。

 

─ウィーン万博とその後の株価暴落といった当時の時代背景を元にした作品考察は、公演プログラムに掲載予定です。ぜひ会場でご覧くださいませ。

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ハプスブルグ家の紋章は今でも

ウィーン市街各地に残されている。

​(写真はシュテファン大聖堂)

​玉崎 優人

​指揮者

​東京藝術大学卒業、昭和音楽大学研究生修了(修了時に学長賞受賞)。

イタリア・マルティーナフランカFestival della Valle d'Itriaでの研修の後、アイルランドBallet&Opera Ireland、ブエノスアイレス・テアトロコロンにて副指揮者を務めた。

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